
ペルソナ5: The Phantom X
Persona5: The Phantom X
開発: ATLUS発売: SEGA無料
PlayNext レビュー
怪盗団の美学を継承しながら、スマートフォンとPCという新しい舞台に降り立った本作は、シリーズを愛するプレイヤーにとって複雑な感情を呼び起こす一本だ。あの赤と黒のUIデザイン、ジャズとロックが交差するサウンドトラック、そして「心の怪盗団」というコンセプトそのものは確かにここにある。しかし同時に、基本プレイ無料のガチャシステムが全体を覆っており、本家シリーズとはまったく異なるゲーム体験が待っている。「ペルソナ5の世界に入り込みたい」という欲求と、「ガチャゲームに本気で向き合えるか」という問いの間で、プレイヤーは自分の立ち位置を決めることになる。
## ビジュアルとサウンドが生む没入感
本作の最大の強みは、間違いなくそのビジュアルクオリティだ。アニメ調のキャラクターモデルはシリーズ本家と遜色なく、パレス(敵の心の宮殿)を探索するシーンのカメラワークや演出は、「スマホゲームの枠を超えている」と素直に感じさせる。UI全体に赤と黒の配色が貫かれており、メニューを開くたびにあのスタイリッシュな世界観に引き戻される。
サウンド面でも手を抜いていない。BGMは本家『ペルソナ5』の楽曲を使用しつつ、新曲もシリーズのトーンに合わせて制作されており、戦闘中のボーカル入り楽曲は画面を見ずとも「ペルソナ5の空気」を再現してくれる。音楽がゲームの文脈に溶け込んでいる度合いは、単なるライセンス使用を超えており、ATLUSと開発チームの連携の深さを感じさせる。
## ターン制コマンドバトルの手触り
戦闘システムは本家譲りのターン制コマンドバトルを採用している。敵の弱点属性を突いてダウンさせ、「1MORE」で追加行動を得るというサイクルは馴染み深く、シリーズ経験者ならほぼ直感的に動ける。ここはガチャゲームにありがちな「オートバトルに頼りっぱなし」にならず、手動操作に意味がある設計になっている点は評価できる。
ただし難易度設計は本家より緩やかで、序盤から中盤にかけての戦闘はかなり余裕を持ってクリアできる。骨太な戦略性を求めるプレイヤーには物足りないかもしれないが、ストーリーをテンポよく楽しみたい層には快適な難易度ともいえる。スタミナ制限があるため、「今日はここまで」という区切りが自然に生まれるのも、モバイルゲームとしての体験設計が丁寧であることの表れだ。
## キャラクターとの距離感
新主人公・周ゴウは、怪盗団の一員として仲間たちと関係を深めていく。コープ(仲間との絆)システムは本家に準じており、各キャラクターの背景や葛藤が丁寧に描かれている。ガチャで獲得した新キャラクターたちも、単なる戦闘ユニットとして扱われるのではなく、それぞれにシナリオが用意されており、感情移入の余地がある。
本家シリーズの主人公・ジョーカーとのクロスオーバー要素も存在し、ファンにとっては「あの世界に戻ってきた」という感覚を強める演出として機能している。ただし、ガチャのレアリティが高いキャラクターほどストーリーへの関与が深い傾向があり、課金圧力とシナリオ消費が結びつく部分が気になるプレイヤーもいるだろう。
## 似たゲームと比べたときの立ち位置
同じ「人気JRPGのスピンオフ・スマホ展開」という文脈で比較されることが多い『ファイナルファンタジーVII エバークライシス』や『ドラゴンクエストウォーク』と並べると、本作の特徴が浮かび上がる。前者二作が既存ファンの「思い出消費」に依存する傾向があるのに対し、本作は新規シナリオとオリジナルキャラクターによって独自の物語を構築しようとしている。その姿勢は真剣であり、単なる「ブランドの搾取」とは一線を画している。
一方、同じ無料プレイのターン制RPGとして『原神』や『スターレイル』と比較すると、フィールドの自由度やコンテンツ量では劣る。しかし「ペルソナ5の美学」という唯一無二のフィルターを持っており、それを求めるプレイヤーにとって代替品は存在しない。あのスタイルとサウンドが好きなのか、それともオープンワールドRPGとしての体験を求めているのか——この問いに正直に答えることが、本作を楽しめるかどうかの分岐点になる。
## 怪盗団の世界に「住む」という体験
本家シリーズが「完結した物語を体験する」作品であるとすれば、本作は「その世界に定期的に通い続ける」ことを前提としたゲームだ。デイリーミッションやイベントが継続的に更新され、コミュニティとしての盛り上がりを維持する設計になっている。この「生きているサービス」としての側面は、本家ではけっして味わえない体験でもある。
惜しむらくは、スタミナ消費・ガチャ確率・パス課金という三点セットが、せっかくの世界観への没入を断ち切る瞬間があることだ。ストーリーの佳境で「スタミナが切れた」と画面を閉じるとき、シリーズが長年かけて築いてきたあの「もう一歩だけ進みたい」という引力が、システムによって遮られる感覚を覚える。これは本作の限界であると同時に、基本プレイ無料というビジネスモデルが必然的に抱える課題でもある。
怪盗団のスタイルを愛し、その世界に長く浸りたいプレイヤーには、無課金でも十分に楽しめる入口がある。ただし本家四作品のような「完全な没入」を求めるなら、まず本家を遊ぶべきだろう。本作はその世界への扉であり、住み続けるための場所だ。
スクリーンショット











