21万7千件を超えるレビューの97.5%が好評で、評価ラベルは最上位の「圧倒的に好評」。Mega Crit が2019年に出したこのデッキ構築ローグライクは、数字の上では文句のつけようがない。だが日本語レビューを読み下していくと、目に付く否定側の言い分がひとつの単語にきれいに収束していることに気づく。「運ゲー」だ。10時間プレイしたレビュアーは「引きよりデッキ組むこと自体が一番の運ゲーだと感じた。」と書き、39時間のレビュアーも「全キャラ初期クリアまではいけました。そこから縛りプレイになっていくのですがただの運ゲーです。」と書いている。一方で1392時間プレイしたレビュアーは、まったく逆の理由でこのゲームを褒めている。買うかどうかの分かれ目は、この二つの評価が同じ設計のどこを見ているかを理解できるかにある。
隠さないことで運を戦略に変える設計
Steam の説明によれば本作はカードゲームとローグライクを融合させたシングルプレイ用デッキビルダーで、登る塔の構成は毎回変わり、350種類以上のカードと200種類以上のアイテムが待ち構える。ランダム性はコンセプトの中心にある。ただし、そのランダムを不透明なままにはしていない。前述の1392時間のレビュアーはこう書いている。「敵の行動予定や選択肢の結果など知識として調べれば誰でもわかることが最初から明示されている親切さに驚いた。その分ゲームの肝であるカードの取捨選択に集中できて良いですね。」
敵が次のターンに何をするかが最初から見えている以上、負けたときに「情報がなかったから」という言い訳が立たない。だから熟練者ほど、これを運ゲーではなく確率を管理するゲームとして読む。93時間のレビュアーが「絶妙なバランスが素晴らしい。」と一行で片づけるのも、326時間のレビュアーが「何度も死んでるうちにコツがわかったり閃きがあったりかなり固めのスルメゲー」と表現するのも、同じ経験を指している。73時間のレビュアーは「デッキ構築ローグライクゲームで必ず名前があがるゲーム。」と書き、このジャンル未経験だったと断ったうえで「カードゲームのよいところは、飽きてもまた何度でも楽しめるところだとわかりました。」と続けている。ジャンルの原点であることは、遊べば説明なしに伝わるらしい。
同じ73時間のレビュアーは、この設計を壊しかねない遊び方にも触れている。「一つだけ注意点があって、攻略サイトを見ると面白くなくなってしまうので、永遠にこのゲームで楽しみたい方は見ない方がいいかもしれません。」「効率が良すぎるカードの組み合わせを知ってしまうと、自然と目指しちゃって、それ以外のカードを上手に使えなくなってしまいました。」情報が最初から開示されているゲームだからこそ、外から最適解を持ち込むと自分で考える余地が消える。これは本作を長く遊べるかどうかに直結する、値段や難易度より実務的な注意点だと思う。
「運ゲー」の不満が生まれる場所
否定側の証言を切り捨てないほうがいい。10時間の同じレビュアーは「レリックとキーカードが手元に集まるまで死に戻りを繰り返すのをリプレイ性が高い言うのは違和感あるし大吉出るまで回すおみくじとしか思えない。」と書いている。これは誤解ではなく、短時間でこのゲームに触れた人が見る風景そのものだ。10〜40時間の範囲では、勝敗を分けているのが自分の判断なのか配られた札なのかを切り分けられるだけの試行回数が溜まっていない。別の10時間のレビュアーが「何回プレイしても勝てそうにないので、次やれば勝てるかもとはならない」「初心者お断りゲームなので注意」と書くのも、5時間のレビュアーが「運が悪すぎるという僕自身の問題によって5時間プレイしたけど1ミリも楽しめなかったです。悲しい」と書くのも、同じ地点で足を止めた記録である。
つまりこの不満は難易度そのものより、上達の実感が返ってくるまでの遅さに起因している。1回の敗北から学べる量が少なく、20回分をまとめて振り返ってようやく傾向が見える。負けを素材として溜められる人には気にならず、1回ごとに手応えが欲しい人には最後まで解消されない。興味深いのは、36時間で非推奨に投じたレビュアーですら「このゲームは本当に楽しい。」と書き、そのうえで毎回違う戦術を求められる点を挙げて「前記の内容が嫌と思う人には向かないでしょう。」と結論していることだ。作品の質ではなく相性の話だと、否定側自身が言っている。
時間が溶ける、という警告を額面通りに受け取る
レビュー投稿者がこのゲームを遊んだ時間の中央値は約38時間ある。93時間のレビュアーは「1プレイしてたら2時間たってたとかざらです。」と書き、164時間のレビュアーは「このゲームをpcで買っててよかった...」「スマホで買ってたらこれからの人生の隙間時間全てこれに奪われる所だった...」と書く。冗談めかしてはいるが、実際に起きることの記述だ。そして227時間プレイしたうえで非推奨を選んだレビュアーは、この吸引力を裏側から言語化している。「面白いからプレイを続けているのでは無く、なにか執着とか取り憑かれたような感覚に似ている。」「このゲームは停滞を招く。」
227時間という数字と非推奨という評価が同居している事実は、賛否どちらの証言よりも本作の性質を正確に示している。中毒性の高さは長所として語られがちだが、それを長所と感じるかは生活のどこにこのゲームを置くかで変わる。
塔を登り直し続けられるかどうか
向くのは、敗北を1回ずつ精算せず在庫として積める人だ。敵の行動が全部見えているのに負けた理由を自分で言語化するのが面白いと思えるなら、ここには何百時間分の題材がある。234時間のレビュアーが「2をやっているけど1をやっていないという人はぜひやってください。」と書くように、続編が出てなお本作を推す層が現存している点も、寿命の長さの傍証になる。本編を抜けた先も痩せていない。専用のカード群を持つキャラクターが4人いて、そこに234時間のレビュアーが挙げるアセンション(難度段階)と実績、毎日同じ条件で世界中と競う Daily Climb、走行条件を自由に混ぜられるカスタムモードが乗る。シングルプレイ専用でオンライン対戦は無く、いつでもセーブできる。腰を据えて遊ぶ前提の作品でありながら、中断のコストは低い。
向かないのは二種類。ひとつは、1回のプレイに明確な進歩の手応えを求める人。10時間で「おみくじ」と断じた感想は正当な観測で、そこから先へ進むには数十回の敗北を消化する意思が要る。もうひとつは、可処分時間に余裕がない人。「時間が溶ける」は褒め言葉として流通しているが、227時間のレビュアーが書いた「人生には他にやるべきことが沢山あるはず。」という一文は、買う前に一度だけ真面目に受け取っておいたほうがいい警告だ。












