深夜の州間高速で巡航に入ったトラックのハンドルは、ほとんど動かない。プレイヤーがやっているのは、ミラーで16メートルのトレーラーの尻を確認し、ラジオのストリーミング局を切り替え、燃料計と走行距離をにらんで次のトラックストップを決め、パーキングの白線に一発でバックで入れる算段をすることだ。撃つ相手も、次のステージも、詰めるべきスコアもない。American Truck Simulatorを何百時間も遊んでいる人の画面には、道と看板と荷物と、先まで続く直線が映っている。それを退屈と呼ぶか、他では手に入らない時間だと呼ぶかで、この作品の評価は真っ二つに割れる。
ETS2の隣に置くと輪郭が出る
SCS Softwareという同じ開発元が、同じエンジンで先にEuro Truck Simulator 2を出している以上、読者の最初の疑問は、ETS2を持っているなら本作も要るのか、になるはずだ。実プレイヤーの答えははっきりしている。15時間のレビュアーは「ETS2と比べ、一本道がとにかく長くて広く、朝焼け、砂漠、荒野、広大な空などロードムービー感があり、より旅をしている感覚を味わえる点が強みです」と書く。445時間のレビュアーはさらに踏み込んで「ETS2が心地よい緊張感を楽しめるのに対して、ATSは広大なアメリカ大陸を縦横無尽に疾走する、まさに『抑圧から解放へ』と言ったところでしょう」と対比した。狭い欧州の市街地を縫うETS2に対して、こちらは道幅も制限速度も広い——同じ枠組みの中で、要求される緊張の質が入れ替わっている。
ただし乗り換えが楽なわけではない。41時間のレビュアーは「ETS2よりも駐車の難易度は高めで、トラックも小回りが利かないボンネット型なので、ETS2に慣れている人でも最初は難しいかも」と釘を刺す。誰かと一緒に走る話も同じレビュアーが触れていて、「非公式マルチ(TruckersMP)を楽しむならETS2のほうがおすすめです」とある。ストアの機能欄にはオンライン協力プレイとRemote Play Togetherが並んでいるが、今回参照した日本語レビュー16件のうちマルチに言及したのはこの1件だけで、しかも結論はその用途ならETS2を選べというものだった。友人とコンボイを組むこと自体を主目的にするなら、本作を先に買う理由は現時点では弱いと私は見る。
つまずくのは運転そのものより手前
好評率の高さに隠れがちだが、今回参照した否定的レビュー8件のうち複数は、合わなかったという話ではなく、そこまで辿り着けなかったという話だ。2時間で投げたレビュアーは「シミュレーションということで難しいことは覚悟していましたが、1mmさせることすらできませんでした」と書き、別の2時間のレビュアーも「まったく合わなかった。まずコントローラーの設定うんぬんの説明が不親切。しばらくシフトチェンジすらできなかった」と述べている。313時間を積んだ人ですら「久しぶりにプレイしようとしたらコントローラーの割り当てが変わり元に戻そうとしたけどネットで調べるも新旧の情報が混在してわからず実質プレイ不可になりました」と報告した。落とし穴はここだ——10年分のアップデートを重ねた作品には、10年分の古い設定情報がネット上に堆積している。
もうひとつの落とし穴は実績側にある。333時間の否定レビューは、運転そのものは絶賛したうえで「ただ本当に難しくて数ヶ月かけて努力しても自分ではクリアできなかったです」「トラックの運転をしながら風景を楽しんだりしたいだけで、本当のトラック運転手になりたいわけじゃないんですよね」と、ドライビングアカデミーの実績を理由に親指を下げている。コンプリートを気にする性分の人ほど、癒しのために買ったゲームで消耗する構図がある。116時間のレビュアーが「走行中に突然ゲームが終了してしまう」と書いている点も、会社を大きくする段階まで進む人は頭に入れておいていい。
買う前に総額を数えておく
数字を並べる。レビュー総数は194,651件で好評率96.9%、評価ラベルはOverwhelmingly Positive。取得時点の同時接続は7,502人で、2016年2月発売の作品として十分に現役だ。レビュアーの中央プレイ時間は約48時間だが、これはレビューを書いた人のサンプルの中央値であって、購入者全体の統計ではない。
より重要なのは価格構造のほうだ。取得時点のストア価格で本体は¥2,780だが、初期状態で走れるのはカリフォルニア・ネバダ・アリゾナの3州にすぎない。州を足すのは有料DLCで、取得時点の価格は多くの州が¥1,640、テキサスのみ¥2,480。現在配信中の有料州DLCを全部買うと本体込みで約¥31,500になる(アリゾナは無料DLC扱い、車両DLCの多くも無料)。さらにサウスダコタ、ノースダコタ、インディアナ、ブリティッシュコロンビアが未配信で控えており、この額は今後も伸びる。大陸を縦横無尽に走るという看板を字義通り実行するなら、¥2,780のゲームを買う話ではないと理解しておくべきだ。
長い直線をどう受け取るか
刺さる人の像は実レビューがそのまま示している。1,895時間のレビュアーは「しかし、私は視覚障害があり運転免許が取得不可能です」と明かしたうえで、HORIのフォースフィードバック対応トラックコントローラーで毎日走っていると書き、「のんびりとマイペースでアメリカ大陸を縦横無尽にトラックでドライブを楽しみたい方にはピッタリですよ!」と結んでいる。23時間のレビュアーの「のんびりまったり配送業。アメリカの貨物列車長すぎないか・・・?」という一文も、この作品が提供している時間の質をよく表している。22時間のレビュアーが挙げた美点は音だ——"Hearing the engine roar from American trucks is beautiful"。
逆に、834時間を費やしてなお親指を下げたレビュアーは「周囲の車にペースを合わせようとするだけでスピード違反で罰金を取られる理不尽ぶりに、車線変更の際に事前に方向指示器を出してるのにお構いなしに突っ込んでくるバカAI」と交通AIを批判しており、同時に「こんな日本人受けしなさそうなゲームでも公式で日本語UIを実装してるのはプラス」と評価もしている。この両立が本作の実像に近い。ゲームらしい報酬設計を求める人、短時間で達成感を回収したい人、コントローラー設定の試行錯誤に時間を使いたくない人には勧めない。逆に、作業用BGMを流しながら数時間を運転だけに溶かせる人、州DLCを長期の買い足し先として楽しめる人、そしてWindows以外(macOS・Linuxにも対応する)で走れるドライブゲームを探している人にとっては、10年分の積み上げがそのまま利く選択肢になる。












