2010年3月31日に発売された中世戦記アクションRPGが、16年後の今も2,857人の同時接続を保っている。Mount & Blade: Warband の Steam レビューは17万1,752件、そのうち97.7%が好評で「圧倒的に好評」の評価を維持している。開発・販売はトルコの TaleWorlds Entertainment。すでに続編 Mount & Blade II: Bannerlord が正式リリース済みであることを踏まえると、旧作にこれだけの人間が残っている状況そのものが説明を要する。レビュアーサンプルのプレイ時間中央値は約97時間——購入者全体の統計ではなく、レビューを書いた層に限った中央値だが、これは一周して満足した人の集まりが作る数字ではない。価格は¥2,600。
一介の傭兵から王になるまでが地続きになっている
公式の説明では、プレイヤーの目的は「戦場へと従者を率い、自身の領土を拡大し、この世の至宝たるカルラディアの王位を手に入れろ」ことだとされる。要点は、傭兵として日銭を稼ぐ段階と、領主として家臣を抱え王国を運営する段階が、モード切り替えなしに同じ1つのマップ上で連続していることだ。1,110時間をプレイしたレビュアーは「ストラテジー性の高い没入感のある戦闘、交易などの経済、modによっては外交ができたり、全く別の世界にするトータルコンバージョンも存在。」と書き、「序盤の難易度は高めだが、中盤以降は映画のような戦闘シーンを再現でき、壮大な冒険が楽しめる。」と続けている。143時間のレビュアーも「味方の陣形をとり、タイミングを見て自分で突っ込み・・・と戦国武将にでもなったかのような気分を味わえる。」と、指揮官と一兵卒を兼ねる感触を挙げている。
同じ中世戦争を扱う作品でも、Total War シリーズは軍団の指揮に、Crusader Kings シリーズは家門の政治にそれぞれ視点を固定する。Warband の特異さは、俯瞰マップで軍を動かした直後に、その軍の中の一騎として自分の腕で槍を突く側へ降りられる点にある。この縮尺の往復こそが、16年前の作品が今も置き換えられていない実質的な理由だと私は見ている。
Bannerlord がある今、あえて旧作を選ぶ根拠
続編がある以上、読者の疑問はなぜ今これなのかという一点に尽きる。実レビューが示す答えは主にMODだ。1,344時間のレビュアーは「MODが未だに充実し続けているしAI技術の発展によってテキストの自家製翻訳も非常に簡単になってきた。」とし、「2が出た今なおWARBANDのMODは盛んだ。」と明言している。同じ人は「毎年必ずこれをやりたくなる時期が来るゲーム。」とも書いている。420時間のレビュアーの見立ては具体的で、「Nativeと有志の日本語翻訳があるMODだけで400時間楽しめました。」「英語が出来るのならおそらく5000時間は楽しめると思います。」——つまり日本語で遊べる範囲と、英語を許容した場合の範囲には桁の差がある。
もう一つは動作の軽さだ。公式の最小要件はメモリ512MB、グラフィックカード64MB、ストレージ100MBで、これは現行の続編とは比較にならない水準にある。旧いPCでも兵士数を増やして大規模戦を回せるという1,344時間レビュアーの証言(「PCスペックが上がるたびに兵士の量も増やせる。」)は、この軽さの裏返しである。マルチプレイは公式説明にある通り最大64人規模のデスマッチ・シージなどを備えるが、同時接続2,857人という数字はシングル含む全体値であり、対戦人口の内訳までは公開データから読み取れない。マルチ目的だけで買うなら、購入前に希望するモードのサーバー数を自分で確認したほうがいい。
買ってから気づく側の現実
高評価率97.7%は、不満が存在しないことを意味しない。もっとも短時間で見切ったレビュアー(1時間)は、合う人として「・昔ながらの不親切設計が全く気にならない人」を挙げ、合わない人として「・UIは重要だと考えている人」「・戦闘時のもたもた感が嫌いな人」を並べている。16時間のレビュアーはさらに直截で、「今から新規でやるようなゲームじゃないです。」「グラフィックも戦闘もしょぼいし古すぎる。」と評価を否定している。174時間プレイした否定側のレビュアーが残した「騎士が戦場に辿り着いてまずやる事は馬を降りる事だがチュートリアルでは馬の降り方を教えてくれない。」という一文は、チュートリアルの説明不足を端的に示している。
日本語対応も注意点だ。524時間という長時間プレイの否定レビューには「地味に日本語対応とか詐欺ってるのもひどい。」とある。有志翻訳MODの存在を前提に語られている以上、公式の日本語表示だけで完結する体験を期待して買うと落差が生じうる。加えて5時間で中断した例では「馬術(馬に乗って槍で的を突いたり弓矢を放ったりする)で3D酔いを激しく引き起こし続行不可能となりました」とあり、「視野角の調整もオプション設定に無いため完全に詰み状態です。。」と結ばれている。酔いやすい体質の人には無視できないリスクだ。
長時間プレイ勢からも出る、構造への批判
短時間で去った人だけが批判しているわけではない点が重要だ。1,655時間を費やしたレビュアーは否定評価を付け、「ランスチャージは他ゲームではあまり体感できないタイプの爽快感を味わえるものの、その他の点は総じてお粗末な出来。」としたうえで、敵勢力が無限に軍を再編する仕様を突いて「「その重騎兵集団を3日で準備できる財源はどこから来たんだよ」とむかっ腹が立ってくる。」と書いている。同じ人は「通商破壊や経済封鎖、資源地の奪取や青田刈りなどの概念が成立し得ないので戦略級シミュレーションとして扱うことは難しいだろう。」とも述べる。10時間のレビュアーの「自由度が高いとされる作品だがそもそもできる事は極めて少ない」も、方向は違うが同じ層——自由度の広告に戦略シミュレーションの深度を期待した層——の失望だと読める。
古さと引き換えに何を得るのか
向くのは、不親切な旧世代UIを乗り越える手間を娯楽の一部として引き受けられる人、そしてMODで自分の世界を組み替えることに時間を使える人だ。有志翻訳を導入する作業自体が苦にならないなら、¥2,600に対する時間あたりの密度は現行の多くのタイトルより高い。逆に向かないのは、現代的な操作性と手厚いチュートリアルを前提にする人、日本語の完全対応を期待する人、3D酔いしやすい人、そして経済・外交の整合性まで詰まった戦略級を求める人である。落とし穴は、評価ラベルの高さをそのまま自分の快適さの保証と読んでしまうことで、その97.7%は数百時間を注いだ層の熱量が押し上げた数字であり、最初の数時間の体験の快適さを保証するものではない。ここは万人向けの入口ではなく、越えるべき段差が最初にある作品だ。












