クリア条件のないゲームを、人はどれくらい遊び続けられるのか。BeamNG.drive はその問いに対する実測データのような作品だ。2015年5月の配信開始から10年以上、いまだ早期アクセスの肩書きを外さないまま、41万件を超えるレビューの97.3%が好評、この記事の集計時点で35,056人が同時にプレイしている。レビュアーサンプルのプレイ時間中央値は約105時間。これはレビューを書いた人の中央値であってプレイヤー全体の統計ではないが、それでも一度触って終わりにされた作品の数字ではない。しかし同じレビュー欄には、201時間、168時間、43時間を費やしたうえで不評側に票を投じた人々の声も並んでいる。この乖離こそが、この作品を買う前に見ておくべきものだ。
壊れ方を計算しているシミュレータ
公式の説明は本作を「あらゆることが実現できるダイナミックなソフトボディ物理演算車両シミュレーター」と定義し、「ゲームでは驚くほど正確なダメージモデルが使用されているため、衝撃をリアルに感じることができます」と続ける。ここが他のドライビング作品との決定的な分岐点になる。多くのレースゲームは車体を剛体として扱い、衝突時の変形はあらかじめ用意されたダメージモデルの差し替えで表現する。BeamNG は車体を無数のノードとビームの構造体としてリアルタイムに解かせ、当たった角度と速度から変形そのものを計算する。あらかじめ用意された「壊れた車体」に差し替えるのではなく、ぶつかった条件から毎回変形を解き直しているということだ。46時間プレイのレビュアーが「リアルだしほかのゲームに比べて、ぶつかり方や、金属の曲げ方がすごい」と書いているのは、この差を実感として言い当てたものだろう。
比較対象を置くと座標が見えやすい。Assetto Corsa 系のシムはタイヤと路面の接地を突き詰めて速く走ることへ演算資源を集中させ、Wreckfest は破壊を競技のルールに組み込んで勝敗という目的を用意した。BeamNG はそのどちらでもなく、物理の精度を高めたうえで目的の設定をプレイヤーに丸投げしている。
「無限に溶かせる」と「飽きやすい」が同居する
自由度に対する評価は、賛否が割れているのではなく、同じ性質の裏表として語られている。1,075時間のレビュアーは「自由度が高いので時間を無限に溶かせる」とし、「ほかのゲームとちがい、アンロックやお金を貯めるフェーズなしで好きな車を好きなように好きなだけいじって永遠乗っていられる」と続ける。89時間のレビュアーも「金銭の概念がないから思うままにプレイできる、また車両のカスタマイズもかなり自由度が高い、また大量のMODが存在するため様々な車に乗れる」と、通貨やアンロックの不在を長所として挙げている。
一方、166時間を投じた好評レビューはこう留保している。「ストーリーがないので自分から何かプレイ方法を考えないといけなく、比較的飽きやすいゲームなのは少し残念。」おすすめしない側の43時間のレビュアーはより端的で、「リアルなシミュレーションでゲームのような爽快感は少ないのでゲーマー向けではない。」と書く。目的を与えてくれるゲームに慣れた人ほど、この作品の入口で手持ち無沙汰になる可能性が高い、と読むべきだ。
用意されたモードへの評価も芳しくない。9時間のレビュアーは「首都高MODとか入れて、走るのは楽しい。」としながら、「あと、最初から入ってるシナリオとかキャンペーンが訳がわからないぐらいつまんない。」と切り捨て、シナリオ作成側についても「一般車両とか、レース仲間の設定とかがクソめんどくさい。もっと簡単なUIにしてほしい。」と述べている。つまり本作の遊び甲斐は、公式コンテンツより MOD とプレイヤー自身の企画に依存している。MOD を探し、入れ、壊れたら切り分ける手間を作業ではなく遊びと感じられるかどうかが、実質的な適性判定になる。
動かす PC のほうが先に試される
Steam の最低動作環境は Windows 10 64bit、Ryzen 5 1600 / Core i5 8400 クラス、メモリ16GB、VRAM 6GB以上、ストレージ60GB。しかもこれは最低ラインで、注記には MOD の導入で必要容量が増えるとある。ソフトボディ演算は CPU 負荷が主体で、車両数を増やすほど重くなる性格を持つ。
レビューの声もそこに集中する。2,035時間のレビュアーは絶賛のなかで「しかし、推奨スペックがどうしても高いため、低スぺだと重くなったり、pcが熱くなったりするかもしれません。」と警告し、168時間のレビュアーは低評価に「低スペックPCで遊ぶのには最新Verでは不能」「Verを下げて遊ぶべし」と書いている。39時間のレビュアーは DX11 から DX12 への移行に触れ、「旧MODは使用不可がデフォルトで任意で切り替える事が出来ます。」「ただし、対応したGPUが組み込まれたPCが必要です。」と報告する。アップデートが要求水準を押し上げる方向に働いており、購入時に動いた構成が二年後も同じ快適さである保証はない。
早期アクセスゆえの不安定さも実在する。201時間を遊んだうえで低評価に転じたレビュアーは、車の挙動や破壊表現を高く評価したうえで「しかし、Ver0.39になってから影の表現が強くなりすぎている。陰に入ると昼間なのに真っ暗になってしまうレベルで何も見えなくなる。」とし、「OSやグラフィックドライバーを最新にしても全く効果なし。以前の0.38ではそのような問題はなかったので非常に残念。」と書いている。長期プレイヤーが特定バージョンで不利益を被る事象は、10年続く早期アクセスの構造的な副作用として織り込んでおくのが妥当だ。
目的を自分で決められる人のための道具
向くのは、車という物体そのものに興味があり、自分で遊びの目的を設計できる人。峠を流す、事故を再現する、Automation で作った自作車を持ち込む、MOD マップを開拓する——どれも自分で言い出さなければ始まらない。¥2,800 という価格に対して、105時間という中央値が示す密度は破格だと言っていい。
向かないのは、進行度やアンロックが可視化されていないと動機が続かない人、対戦や勝敗で燃える人、そして予算の都合で PC 構成を上げられない人だ。公式マルチプレイヤーは本稿執筆時点では実装されておらず(開発元は 2026 年に実装方針を公表しているが、いつ入るかは確定していない)、Steam のカテゴリ上もシングルプレイヤー扱いで、同じ画面を共有する Remote Play Together が用意されているだけだ。仲間と遊ぶ前提で買うと最初に躓く箇所になる。
落とし穴を一つ挙げるなら、クラッシュ動画が面白そうだ、という入口だ。衝突を眺めるだけの体験は数時間で飽きる可能性が高く、その先へ進むには MOD 管理・シナリオ作成・車両セッティングという、ゲームというよりツールの操作に近い領域へ踏み込む必要がある。そこを面倒と感じるか、そこからが本番と感じるか。41万件のレビューが好評と不評に分かれている線は、おおむねその一本だ。












