21万8,280件のレビューのうち96.2%が好評という数字だけ見れば、Cupheadは議論の余地がない傑作に見える。だが残り4%を読むと、印象が変わる。否定側のレビューはただの八つ当たりではなく、被弾許容量・ボスの形態数・背景の描き込み量といった具体的な設計判断を名指しして反対している。しかも彼らの多くは10時間、17時間、77時間と相応に遊んだ上で親指を下に向けている。2017年9月発売のこの作品を¥1,980で買うかどうかは、「難しいゲームが好きか」ではなく、「この作品が採っている難しさの作り方に納得できるか」で決まる。
手描きは鑑賞対象であり、同時に視界の敵でもある
Steam の公式説明は本作を「1930年代のカートゥーンにインスピレーションを得た」作品とし、「セル画ですべて手描き、背景は水彩画、音楽も録り下ろしのジャズ楽曲」だと説明している。この工程が画面の密度を生んでいるのは間違いないが、密度はアクションゲームでは中立な価値ではない。17時間プレイして否定評価を付けたレビュアーは、音楽とグラフィックを褒めた上でこう続けている。「しかし、書き込みすぎ。」「1被弾が命取りになるボス戦において、邪魔でしか無い。」さらに「自機より手前のレイヤーに配置されているせいで普通に進んでいたら避けれない雑魚敵もいる」と、具体的な視認性の問題を挙げている。46時間の好評レビュアーが「あまりの作画の面白さに見入ってしまうのも難易度が高く感じる要因かもしれません。」と書いているのは同じ現象の裏返しで、見せたい絵と読ませたい弾幕が同一平面で競合している。ビジュアルを褒めて終わる紹介記事が触れないのはここで、手描きアニメーションは本作にとって装飾ではなく難易度の一部として機能している。
ボスラッシュという構造が、失敗のコストを決めている
本作はジャンル上は run and gun だが、実態はボス戦の連続に寄っている。この構造は、Konami の Contra 系が長い道中の末に関門としてボスを置いた古典的な設計とは逆で、むしろ 2016年の Furi のように戦闘そのものを本編に据えた作りに近い。構造が変われば失敗の意味も変わる。42時間のレビュアーは「1ステージの長さは1,2分程度でトライアンドエラーが簡単です。」と長所として挙げつつ、同じレビューの中で「同じフェーズで詰まるとかなりしんどいです。ステージの攻略に1時間かかったときは次のステージに挑戦するのが億劫になりました。」とも書いている。1回の失敗は安いが、同じ壁の前での失敗の総量は安くない。8時間で否定に回ったレビュアーはこの往復を「なんとか現在の形態を突破したら次の初見◯しでやられ、それを突破したら次の初見◯しでやられるの繰り返しです。」と表現し、体力3・形態4〜5という配分そのものを問題視している。
レビュアーサンプルのプレイ時間中央値は約24時間(購入者全体の統計ではなく、レビューを書いた層に限った中央値)で、本編の踏破自体は数時間から10時間規模で語られることが多い。つまり中央値の水準にいる層は、クリア後もランク上げや実績、縛りに時間を使っている。65時間のレビュアーは「300%クリアでは物足りず色々な縛りプレイをしてしゃぶりつくしてしまうくらい楽しめました。」と書き、「高難度も大体しっかり練習すれば超えられる壁として程よくカタルシスがあります。」と評価する。一方で19時間の否定レビュアーは同じ設計を「難しいというより、作りがお粗末で理不尽なだけ。」と切り捨てる。両者は同じ現象を見て、乱数と初見殺しを学習対象とみなすか、調整不足とみなすかで割れている。この分岐は好みの問題であって、どちらかが誤読しているわけではない。
協力プレイは「難易度緩和」ではない
本作は共有/分割画面での協力プレイと Remote Play Together に対応しているが、二人で遊べば楽になるという期待は実レビューに支持されていない。55時間のレビュアーははっきり書いている。「2人プレイになると難易度が上昇しますが、蘇生パリィでバランスはとれています。」被弾で倒れた相方をパリィで蘇生できる代わりに、画面上の被弾対象が増える。腕前の差がそのまま事故の頻度になるので、相方選びは実質的に難易度設定に等しい。同じレビュアーは続けてこうも書く。「それよりも難易度が高いのは一緒にやる人を見つけることです。次回作ではオンライン機能が欲しい」——ネット越しの協力を前提にできないことは、2017年の設計として今も残る制約だ。
さらに実務的な落とし穴がある。協力プレイができずに否定評価を付けたレビュアーは「結論から言うと、2人でプレイできませんでした。」と報告し、キーボード2台では2人目が認識されず、「ゲームコントローラー」が別途必要だったと書いている。同居の相手と分割画面で遊ぶ計画なら、コントローラーが2つあるかを買う前に確認しておくべきで、これは作品評価とは別に事前に潰せる失敗だ。46時間のレビュアーが「二人プレイのイメージがあるかも知れないけど、一人でも全然楽しめます!」と付け加えている通り、一人用として買っても欠損はない。
上達を娯楽として受け取れる人へ
向くのは、パターン学習そのものを遊びとして味わえる人だ。3時間時点のレビュアーが書いた「観察→学習→実践のループがしっかり機能していて、自分が成長している実感を得やすいのが魅力だった。」という一文が、この作品が返すものを最も端的に説明している。14時間のレビュアーも「ただ理不尽さを感じることはあまりなかったので、ゲームバランスは配慮されている気がします。」と、否定側と正反対の結論に達している。
向かないのは、難易度を自分で下げて先へ進みたい人だ。本作には難易度の低い設定(Simple)が用意されているが、Simple でボスを倒しても「魂の契約書」は手に入らず、契約書が揃わないと終盤へは進めない。つまり「簡単にして最後まで見る」が素直には成立しない。ここは Celeste のアシストモードのように、進行と難度調整を切り離した近年の作品と比べると明確に古い作法だ。集中力の持続を前提にしている点も重い。否定側には「パターンを覚える体力と集中力が保ちません。」という声もあり、これは腕前ではなく可処分な集中の量の話で、練習量では埋められない。
落とし穴は3つ。Simple は逃げ道にならないこと、協力プレイは緩和策ではなくコントローラーの実物が要ること、そして17時間のレビュアーが「骨のある2Dアクションがしたいのであれば正直他のゲームの購入を検討するといい。」と書いた通り、歯応えのある2Dアクションが欲しいだけならこの作品である必然性はないことだ。逆に、1930年代アニメの語法とボス戦の反復が結びついた体験に興味があるなら、代替はほぼ存在しない。発売から8年を経てなお3,718人が同時に遊んでいるのは、その代替不能性の側の証拠だと読める。3時間のレビュアーの言葉を借りれば「万人受けはしないゲームだなと思いました。」——それでも刺さる相手には、¥1,980は安い。












