レーザーの経路を装置でつなぎ替え、箱を積み、砲塔の視線を切って扉の向こうのテトリミノを取る。その手つきが十分に洗練されてきた頃、どこにいても聞こえる創造主の声と、遺跡の片隅に置かれた端末のテキストが、同じ問いを繰り返し突きつけてくる。命令通りに課題を処理し続けているお前は、意味を理解しているのか、それとも処理しているだけなのか。The Talos Principle が特異なのは、この問いが物語のカットシーンに隔離されていないことだ。プレイヤーが手で解いているパズルの構造そのもの——与えられた道具の組み合わせだけで、外から与えられた目標に到達する——が、そのまま問いの実演になっている。Steam の公式説明はこれを「一人称哲学的パズルゲーム」と呼び、脚本に Tom Jubert(FTL, The Swapper)と Jonas Kyratzes を迎えたと明記している。27時間プレイしたレビュアーの「ゲーム全体を通してパズルをする意味と向き合い続けることになります。良い体験でした」という一文は、この構造が実際に機能した側の報告だ。
手の遊びとしての実装は堅い
公式説明によれば収録パズルは120以上。開発は Croteam、販売は Devolver Digital で、2014年12月11日の発売から10年以上が経つ。にもかかわらず古さを感じさせにくいのは、3Dパズルにつきまとう試行のやり直しコストを潰す機能が入っているからだ。28時間プレイのレビュアーは「パズルやスターの要素自体の面白さは言うまでもないが、個人的には「早送り/巻き戻し」機能を実装したことを1億回くらい褒めたい。これだけで3Dパズルゲーにありがちな煩わしさをほとんど解消してくれている。」と書き、続けて「入力方式によってはデフォルトでキーが割り当てられていなかった気がするので、最初に設定を確認しておくとよい。」と注意を添えている。44時間プレイの別のレビュアーも「キー設定から早送りボタンを登録しておくと楽になれます。」と同じ点に触れている。買ったら最初にキーコンフィグを開け、という実務的な助言が複数のプレイヤーから独立に出ている以上、これは体感を左右する要素とみてよい。
圧倒的好評の内側で、満足度は割れている
数字の上では支持は圧倒的だ。レビュー総数32,974件に対して好評率は95.3%、Steam の評価ラベルは Overwhelmingly Positive。レビューを書いたプレイヤーのプレイ時間の中央値は約27.7時間で、これは購入者全体の統計ではなくレビュー投稿者というサンプルの中央値だが、120以上のパズルを一通り踏破するのに相応の腰の据わりが要ることは読み取れる。
ただし、この95.3%の内側で満足度は明確に割れている。43時間プレイのレビュアーは「このゲームは万人にお勧めできます。」と断言し、「パズルの難易度は易しいものから難しいものまで幅広く用意されています。難しいパズルを解けたときの達成感がたまらなく、記憶を消してもう一度遊びたいと思いました。」と続ける。一方で1時間で切り上げたレビュアーは「パズルは容易なものが続き、解いた時の爽快感が低い。」「パズルごとにただ離れた場所に設置してあるので、パズルを発見するために探索するときの徒労感も多い。」と正反対の評価を下している。5時間のレビュアーはさらに踏み込んで「類題が多すぎる。3D迷路をひたすらやらされている気分。」「手数が多く、考えている時間よりも操作している時間の方が長い。」と書いた。
この対立は好みの問題では片付かない。同じ設計が、遊ぶ量によって別の顔を見せているとみるのが妥当だ。序盤は道具の紹介にページを割くので密度が低く、パズルの歯応えを買った人ほど最初の数時間で失望しやすい。逆に24時間・27時間・44時間と積んだ層は難度曲線の上側を体験している。私の判断では、この作品の落とし穴は難しすぎることではなく、真価が現れるまでの助走が長いことにある。
Portal の記憶で買うと、The Witness の重さが来る
比較で輪郭が出る。13時間プレイのレビュアーは「プレイしていてPortalを思い出した。」と書き、44時間のレビュアーも「portal経験者にオススメの3Dパズルゲーム。」としたうえで「クリア難易度は結構難しめ、The Witnessよりは少し簡単なぐらい。」と位置づけている。Valve の Portal 2 は一周10時間前後で、笑わせながら手を引いていくテンポの良さが持ち味だ。Jonathan Blow の The Witness は説明を一切せず数十時間を放置するタイプ。本作はその中間より The Witness 寄りの分量に立ちながら、Portal 的な道具の組み合わせを主軸に据えている。つまり、Portal の軽快さを期待して買い、The Witness の総量を課される——これが体感のズレの正体だと私は見る。
テキストは読み物であって、飛ばすと骨だけが残る
物語目当ての層にも罠がある。24時間プレイのレビュアーは「ストーリーは難解で、プレイ中は理解できませんでしたが、他の人の解説を読んでみるとなかなか興味深いものでした。」と正直に書いている。プレイ中に自力で像を結ばせるのは難しい設計だということだ。逆方向の不満もあり、0時間台で見切ったレビュアーは「パズルがやりたかった。プレイしたものは神話をモチーフにした小説だった。」と切り捨てている。端末のテキスト量は、読む気がない人には確実に過剰に映る。
購入前に潰しておくべき現実的な懸念も挙げておく。第一に3D酔い。3時間で断念したレビュアーが「3D酔いが激すぎて続けられません」と書き、別の3時間のレビュアーも「面白さ以前に、3D酔いが激しくて続けられませんでした」と重ねている。ただし24時間プレイのレビュアーは「(画面酔いは多くのプレーヤーに指摘されたからか、オプションに画面酔い対策モードも用意されていました。三人称視点にするとだいぶ楽です)」と対策の存在を報告している。第二に入力方式。同じレビュアーは「物を持って対象物指定するパズルですが、コントローラーではその指定が持つたびに解除されてしまいます。キーボード操作前提のゲームのようでしたので注意。」として、フルコントローラサポート表記にもかかわらず非推奨と評価している。第三に実績狙い。53時間のレビュアーは「実績は癖ものもあり全実績GETには苦労します。」とし、手動セーブがなくバックアップの復元も最新10件までのため分岐地点へ戻れなくなる旨を具体的に説明している。
取得時点のストア表示価格は¥3,400。パズルを解く手だけを求め、序盤の軽さを我慢できず、テキストを読み飛ばす遊び方をする人には、この値段は高くつく。逆に、解法が閃くまでの停滞そのものを楽しめる人——13時間のレビュアーが書いた「連続で続けると思考が固まり、行き詰まる事があるので」「その時は一度休んでからやり直すと案外すんなりできたりもする。」という遊び方が自然にできる人には、数十時間ぶんの手応えと、それに紐づいたテキストが残る。キーボードで遊べて、酔いに強く、端末の文章を全部読むつもりがあるなら、10年前の作品であることは購入をためらう理由にならない。












