カートに入れたまま閉じたタブがある。7,000円のゲームを買うか、積んだままの1,000円のゲームを起動するか、決めきれずに夜が終わる。そのとき一度は頭をよぎるのが「これ、1時間あたりいくらだ」という計算だ。PlayNext では収録タイトルのうち248本について、レビュアーの実プレイ時間(中央値)とストア価格から時間単価を出した。対象は公開中・有料・レビュー1,000件以上で、レビュアーの実測プレイ時間が取れたものに限る。価格・プレイ時間はいずれも2026年7月30日〜8月5日に Steam から取得した時点の値だ。248本の時間単価の中央値は ¥70/h だった。そしてこの数字を追うと、「単価が安いゲームを選べばいい」という発想そのものが崩れる。
248本の分布 — 4割が¥50/h 未満に収まる
分布はこうだ。
| 時間単価 | 本数 | 割合 |
|---|---|---|
| ¥50/h 未満 | 104本 | 41.9% |
| ¥50〜150/h | 87本 | 35.1% |
| ¥150〜300/h | 43本 | 17.3% |
| ¥300/h 以上 | 14本 | 5.6% |
248本中104本、4割強が¥50/h を切る。映画館で2時間1,900円なら¥950/h であることを思えば、PC ゲームの時間単価は桁が違う。中央値¥70/h は1日2時間遊んで140円の水準だ。
ただしこの数字には、隠すと記事の意味がなくなる限界が2つある。
1つ目。プレイ時間は「そのゲームにレビューを書いた人を最大100人ぶん見たときの、そのゲームの生涯総プレイ時間の中央値」であって、公称クリア時間でも購入者全体の統計でもない。 クリアまでの所要時間ではなく、周回・放置・やり込みを含んだ累計である点に注意してほしい。レビューを書くのは、何かを言いたくなるほど関心を持った層に偏る。買って30分で放り出した人の大半はレビューを書かない。ここでの時間は購入者平均より長く出る方向のバイアスを持っている。
2つ目。価格は上記の取得時点(2026年8月上旬)のストア価格で、セール価格を含む。 定価ではないので、時間単価はセールのたびに動き、この記事のランキングも順位ごと入れ替わる。恒久的な序列として読まないでほしい。実際この248本の最安 Black Desert は¥90で42.9時間、時間単価¥2 だが、この¥90 は明らかにセール中の値だ。時間単価は「その瞬間の買い物としてどうか」を測る指標であって、作品の固有値ではない。
最高単価は¥975/h、しかもそれは圧倒的に好評だった
最高単価は What Remains of Edith Finch。¥2,650 に対し実プレイ時間中央値2.7時間、時間単価は ¥975/h。最安の¥2/h とは約460倍の開きだ。
コスパで買い物を決める人間なら真っ先に「買ってはいけない」側へ分類する数字のはずだ。ところが Steam でのこの作品の評価は「圧倒的に好評」、レビュー52,065件である。¥300/h 以上の14本を数えると、そのうち11本が「非常に好評」以上だった。残る3本のうち賛否が割れている(「賛否両論」)のは1本にすぎない。
| タイトル | 価格 | 実プレイ時間中央値 | 時間単価 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| What Remains of Edith Finch | ¥2,650 | 2.7h | ¥975/h | 圧倒的に好評 |
| Firewatch | ¥2,300 | 4.9h | ¥468/h | 非常に好評 |
| A Plague Tale: Requiem | ¥7,980 | 19.3h | ¥413/h | 非常に好評 |
| Stray | ¥3,500 | 8.6h | ¥409/h | 圧倒的に好評 |
| A Short Hike | ¥820 | 3.5h | ¥237/h | 圧倒的に好評 |
高単価帯に集まっているのは、値段が高いゲームではない。短いゲームだ。¥820 の A Short Hike が¥237/h に来ていることがそれを示す。分子(価格)より分母(時間)が桁で効く。
短さを承知で満足している人の書き方
では高単価帯を買った人は損をしたと思っているのか。レビューはそう単純ではない。
Edith Finch を2時間プレイした人はこう書いている。
それだけなんだけど、不思議とこの短い体験に後悔はない。それを説明できない。
同じレビューは冒頭で、ゲーム性があるわけではない、操作感に物足りなさはある、とも書く。満足の理由が遊びの量にないことを、本人が自覚したうえで肯定している。
一方、価格に納得していない声も同じ作品に並ぶ。3時間プレイして「おすすめしない」を付けたレビュアーは
800円~1200円くらいが妥当でしょう。
と書き、同じレビューの2行あとで
3時間かからずに全実績開放しました。
と付け加えている。興味深いのは、15時間プレイして「おすすめ」を付けた別のレビュアーもまた、括弧書きで
フルプライスの価値は無い
と記していることだ。推奨するかの判定と、価格が妥当かの判定は、同じ人の中でも分かれている。
Firewatch(¥468/h)ではこの割れ方がもっと露骨に価格の話になる。4時間プレイして「おすすめ」を付けた人は
セールで購入してサクッとプレイする分には充分楽しめると思います。
と書き、同じく4時間プレイして「おすすめしない」を付けた人は
セールなら買っても良いですが、フルプライスだと高く感じるでしょう
と書く。内容の評価はほぼ一致していて、分岐点は購入価格だけだ。 時間単価の高い作品ほど、セールを待つ判断が効くことの実例と読める。
A Short Hike(¥237/h)では分母の不確かさが見える。5時間プレイしたレビュアーは推奨しつつこう注意する。
唯一の注意点としては、クリア(ゴール)を目指すだけなら2~3時間と非常に短いことです。これをあらかじめ知らずに買うと、ボリューム面で拍子抜けしてしまうかもしれません。
7時間のレビュアーは、時間が伸びた理由を自分で説明している。
最後の最後にビーチボールのようなゲームで30回ラリーをする実績のためにこのプレイ時間になってしまった
集計の中央値3.5時間は、こういう実績埋めの人と2時間で終える人が混ざった値だ。実績を追わないなら、あなたにとっての実単価は集計値より高くなる。
安い単価が満足を意味しているわけでもない
逆側も同じく歪んでいる。時間単価が¥30/h を切りながら Steam 評価が「やや好評」または「賛否両論」に留まるタイトルが7本あった(¥30/h 未満は61本あり、うち54本は「非常に好評」以上。以下はその7本からの抜粋)。
| タイトル | 価格 | 実プレイ時間中央値 | 時間単価 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| Black Desert | ¥90 | 42.9h | ¥2/h | やや好評 |
| Dead by Daylight | ¥1,980 | 258.7h | ¥8/h | やや好評 |
| Fallout 76 | ¥1,200 | 106.6h | ¥11/h | やや好評 |
| Slay the Spire 2 | ¥2,800 | 172.8h | ¥16/h | 賛否両論 |
| Nioh: Complete Edition | ¥957 | 53.5h | ¥18/h | やや好評 |
Dead by Daylight の258.7時間は、そのゲームが楽しかったことの証明ではない。長時間プレイと不満は両立する。 長く遊べる設計のゲームほど、遊び続けた人の不満が積み上がる時間も長い。
最も極端な例が Sid Meier's Civilization® V だ。¥745・実プレイ時間中央値251.1時間・時間単価¥3。248本で2番目に安く、評価は「圧倒的に好評」、レビュー210,340件。数字だけ見れば議論の余地がない。3,031時間のレビュアーは
時間泥棒と言うより略奪者レベル。
と書いている。しかし同じ作品のレビュー欄には、1,463時間プレイした人がこう書いている。
1451時間遊びつくしましたが調べても公式を確認しました現在起動すらしません…
1,431時間のレビュアーも、ランチャー廃止を境に起動しなくなり、整合性チェックも再インストールも互換モードも効かなかったと報告している。時間単価¥3という数字は、あなたのマシンでそれが起動することを何も保証していない。 起動しなければ分母はゼロ、単価は無限大になる。
同じことは短い側でも起きる。Portal(¥1,200・実プレイ時間中央値5.5時間・計算すると約¥220/h)のレビューには、こう書いた人がいる。
10分ほど遊んだ段階で考えられないくらいの3D酔いをしてしまったため、プレイを断念してしまいました。
このレビュアーの記録プレイ時間は0時間だ。4時間プレイした別のレビュアーが
総評としては、この値段でこのクオリティ・オリジナリティで、程よいボリューム。
と推奨している、まったく同じ作品での話である。
時間単価が測っているのは持続時間であって満足度ではない
ここまでを突き合わせると、私の読みはひとつに収束する。時間単価は「満足度あたりの価格」ではなく「持続時間あたりの価格」を測る指標にすぎない。 分母のプレイ時間は面白さの量ではなく、そのゲームがプレイヤーを画面の前に留めた長さだ。留まった理由が没入なのか惰性なのか周回前提の設計なのかは、時間という単位に潰されて見えなくなる。
だから¥975/h が圧倒的に好評であることも、¥2/h が「やや好評」に留まることも、矛盾ではない。事実、¥300/h 以上の14本のうち11本はジャンルに「アドベンチャー」を含み、安い順20本のうち15本はストラテジー・MM(大規模マルチプレイ)・RPG のいずれかを含んでいた。単価ランキングは実質的にジャンルランキングになっている。 「安い順に買う」は「ストラテジーとオンラインゲームと RPG に寄せて買う」とほぼ同義だ。
使い方 — ストアの単価ではなく、自分の単価で計算する
では買い渋る夜に何を計算すればいいか。ストア側の単価ではなく、自分の側の単価を出すほうが実用になる。手順は2つだ。
第一に、今月ゲームに使える時間を、希望ではなく先月の実績で置く。 仕事終わりに2時間取れる日が週3日なら月24時間、といった水準でいい。
第二に、支払額を集計の中央値ではなく、その自分の時間で割る。 月24時間の人が251時間の Civ V を買えば、レビュアーの中央値と同じだけ遊ぶのに10か月かかる。その間、他の作品は買えても起動されない。名目の¥3/h は、10か月ぶんの選択肢を1本に固定する代償とセットだ。逆に2.7時間の Edith Finch は月24時間の枠を1割しか使わない。¥2,650 は「1か月の遊び枠の1割を買う値段」であり、そう読み替えれば¥975/h はほとんど意味を失う。
分かれ目は単価の高低ではなく、あなたの制約が「金」なのか「時間」なのかにある。金が希少で時間が余っているなら、単価の低い側は正しく効く。逆に時間が希少なら、単価の低い作品を買うのは「消化できない在庫を安く仕入れる」行為になりかねない。
もうひとつ今夜すぐ使える線引きがある。レビューの不満が値段に向いているのか、ゲームそのものに向いているのかを見る。 Firewatch の2人のように内容の評価が一致していて価格だけで割れているなら、セールを待てば判断は一本化する。低単価帯で賛否が割れている場合、割れているのは価格ではなく中身か動作環境なので、待っても解決しない。











